
kokoimaが始まるきっかけ
kokoima設立のきっかけとなったのは、浅香山病院の中で2012年に行われた写真展でした。
それはちょっと風変わりな写真展で、何十年もの長期にわたり精神科病院に入院中の患者さんが、自身が撮されたパネル写真の前で実名公開のまま 「THIS IS ME」と語るナラティブ写真展の活動でした。
名前が偽名になったり、「Aさん」という呼び方になったり、顔にモザイクがかかったりと、個人を特定できないようになりがちな中、患者さんたちからのリクエストもあってこういった形になりました。これが私達に大きな発見を与えてくれました。
日常を切り取った写真から
時は2011年。浅香山病院で、雑誌「精神科看護」の企画による患者さんと病院の写真撮影が行われました。写真家の大西暢夫さんが撮影したその約540枚の写真をすべて見たときに、
『“患者”としてではなく、“ひとりひとりの人”の姿と物語がある』
ということを強く感じました。
そこに写っていたのは、看護師がケアをしている時には記憶にとどめることができなかった、見たことがない顔(表情)であり、ひとりひとりの日常、そして、ケアの瞬間に起こっていることが伝わるものだったのです。

この写真から感じ伝わることを多くの方々に届けたい、との思いから写真展の開催が企画され、その呼びかけに患者さん9名、看護師や作業療法士など多職種13 名の計22人が集まり、タイトル、写真の選定、展示方法、スケジュールなどを話し合いながら2ヶ月をかけて準備しました。そして、2012年11月、初回写真展(院内)の開催にこぎつけ、3日間で延べ494 名(院内419名、院外75名)の方が来場くださいました。

写真展の特徴
冒頭でも延べましたが、この写真展の大きな特徴は、被写体となった患者さん自身が実名で出ていることと、写真の前に本人が座って来場者と話をすることです。
打ち合わせの際に「どうしたいですか?」という問いかけに対し、「現在の自分の姿と思いを感じ取ってほしい」という希望から実名で出ることをみなさんが選択されました。そして打ち合わせや回を重ねるごとに、パネル写真の横に座って観覧者と直接対話するというスタイルになったり、名刺を作る人が出てきたりという変化が生まれていきました。

「これが実物の私です。私の語りを聞いてください。あなたと交流したい。」
というのがみなさんから出てきた声で
「何者でもない」という状態になってしまうんじゃなく、「名前のある自分」としていたい
という気持ちがあることに気付かされました。
そういったことから、私たちはこの写真展を『“THIS IS ME”と語るナラティブ写真展』と呼ぶようになりました。
外から内へ
この活動は、院外の参加者も含めた「ココ今ニティ メンバーズ」としての自主活動に発展し、別の病院、大学、学会等の、様々な場所での出張開催なども行い、2012年~2015年に「ココ今ニティー 写真展」として約10回の開催に至りました。
このように、病院の「外」で、自身のことを語る経験を積み重ねる中で、様々な声や行動が入院患者の方から出てきました。自ら名刺が欲しいと望まれる方、名刺を渡す練習を何度もされる方、「いかにも浅香山病院の患者とわかるような恰好をしてたらだめや」と言われる方など、病院「内」での様子とは全く違った、患者さんたちの生き生きとした姿がそこにありました。
そんな中で出てきた言葉に
「社会貢献したい、誰かの役に立ちたい」
「この病気の偏見をなくしたい」
という言葉でした。入院生活が20〜30年となって目立った社会参加ができておらず、でもそんな中でも「名前のある自分」で社会と接したい、というみなさんの想いが一気に顕在化してきたように感じました。
入院患者さんが、病院の「中」ではなく「外」に出て「個人」として社会とつながることで、生き生きとした姿を見せ、こういった言葉を言われたことは、看護師としてケアに当たっていた私達にとって、
「必要なケアとは一体なんなのか」
という根源的な問いが突きつけられるような思いでした。
そこからの葛藤
写真展は入院患者さんからも、来場者からも非常に評判がよいものでした。
しかしながら、ある葛藤が生まれます。病院「外」の会場で豊かなコミュニケーションを展開し、心地よい疲労とともに「家路」に着く。入院患者さんは精神科病院の「内」へ、スタッフや来場者の方は自宅がある「外」へと。3年ほど展覧会を続ける中で、この「変わることのない事実」に痛みを感じていく自分がいました。
写真展の準備から当日まで、真剣になっている入院患者さんを見るたびに、日常生活を送れる力を持っている。と強く思いました。しかし、入院が長期になっている人ほど、退院することを諦めてしまっていたり、また退院してもひとりで暮らすことに孤独・孤立を感じてしまうことが、「退院する勇気」の阻害要因になっているのではないか。病院の中ではなく、「まちの中」に安心できる居場所が必要なんじゃないか。
そんな思いが強くなっていき、2015年11月にNPO法人の設立総会、12月にcafeここいまオープン、2016年の3月に法人認証という経過を経て、NPO法人kokoimaが誕生しました。
